• 災害/日本 (2018)

西日本豪雨災害の被災地で実感した「こころのケア」の必要性

広島県や岡山県、愛媛県など広範囲に甚大な被害をもたらした2018年7月の西日本豪雨災害。家屋の損壊数も多く、長期間の避難生活を余儀なくされた被災者が数多くいました。

被災者だけでなく支援スタッフのこころのケアも必要

長期にわたる避難生活は心身ともに疲弊をきたすもの。赤十字はそんな被災者の状況に対応するため、医療救護や救援物資の提供だけに留まらず「こころのケア」にも力を入れて取り組んでいます。
日本赤十字社医療センターの臨床心理士秋山恵子氏はアセスメントチームの一員として、西日本豪雨の被災地である広島県呉市に赴いた一人。

目に見えない心理面の損耗はどうしても後回しになりがち。そういった心理面の負担を軽減すべく現場では被災者一人一人と向き合って活動していました。
その秋山氏が特に気にかけていたのが被災者と直接向き合う行政職員の心の健康。
「職員の方も被災地に住む被災者のひとり。自身や家族のことを二の次にして住民を支援する職員に対しても“こころのケア”は大事なものとなります」

愛媛県大洲市の肱川地域復興支援担当部長兼支所長の篠原雅人氏は、
「発災から数カ月は悪夢のようでした」と当時を振り返ります。
「電話が鳴り続く狭い部屋で災害対応を行っている職員たちも被災者なのです浸水した家のことを心配しながらも住民のために休みなく働き続け、疲労とストレスで力尽きてしまう。日赤が行っている“こころのケア”は行政の人間にも必要だと痛感しました」

日本赤十字社医療センター 秋山恵子 臨床心理士
日本赤十字社医療センター 秋山恵子 臨床心理士
肱川地域復興支援担当 篠原雅人(左端) 部長兼支所長
肱川地域復興支援担当 篠原雅人(左端) 部長兼支所長

現地支援者の育成も重要な役割

秋山氏は「こころのケア」には、被災者のケアの他にもう一つ大きな役割があると話します。「コミュニティにおいても互いを支え合うことができるように、その理念や習慣を地域に残していくのも大切な役目なんです」

それを実践しているのが、伊勢赤十字病院で臨床心理士を務める中井茉里氏。中井氏も「こころのケア」班の一員として被災地に赴き、小学校の教師に子どもとたちの接し方をアドバイスする支援に従事しました。
「心が傷ついている子どもに対して、このように声を掛ければよいという“正解”はありません。年齢に応じて、子どもたちのストレスサインやサポートの仕方に特徴があるので、なるべく早く把握することが大切と先生方には伝えています」
医療支援者はいつかは被災地を離れてしまうもの。彼らが離任した後も現地の住民たち自身が被災者を支援できるように専門的な知識を提供することも「こころのケア」班の重要な役割となっているのです。
「こころのケア」活動は被災地のニーズに対応しながら役割を拡大し、今後ますます欠かすことのできないものとなっていくでしょう。

伊勢赤十字病院 中井茉里 臨床心理士
伊勢赤十字病院 中井茉里 臨床心理士
小学校教師にレクチャーする「こころのケア」班
小学校教師にレクチャーする「こころのケア」班

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